Advanced Reading Comprehension: An Essay on Cooking

 
　原料(げんりょう)の原味を殺(ころ)さないのが料理(りょうり)のコツのひとつであります。きゅうりならきゅうり、そらまめならそらまめに、それぞれの持ち味があるのですから、その持って生まれた味を殺さないように工夫(くふう)しなければなりません。小芋(こいも)の味ひとつにしたって、人の力ではどうにもできないのでありますから、持ち味を生(い)かすということは、とりもなおさず、生きたよい材料(ざいりょう)を扱(あつか)うということになるのであります。例えば湯豆腐(ゆどうふ)をこしらえるにしても、その豆腐のよいものを探(さが)し当(あ)てねばならない。それでなくって、醤油(しょうゆ)だ、薬味(やくみ)だといって、それらにばかりやかましくいったところで、もちろん、それもやかましくいわねばなりませんが、それら工夫のことは第二義(だいにぎ)のことで、それよりも豆腐の吟味(ぎんみ)が第一義(だいいちぎ)なのであります。材料の精選(せいせん)とともに材料の原味を殺さぬこと、その味というものは、科学(かがく)や人為(じんい)では出来ないものでありますから、それを貴(とうと)ぶのであります。